2022年3月にGLOEの社外取締役に就任以来、共にGLOEのビジョン・ミッションの実現、そしてeスポーツ業界の発展に向き合い続けてくださっている、千葉ジェッツふなばし 代表取締役社長の田村さんと、GLOE代表取締役の谷田さんにお話を伺いました。
ゲーム、eスポーツ、スポーツ。3つの領域を横断した稀有な存在
谷田さん:田村さんと出会ったのは2020年のコロナ直前のタイミングでしたよね。共通の知人を通して千葉ジェッツの試合を観戦しに行った際に、田村さんがずっと隣で解説してくださって。今考えると、とても贅沢な時間でした。そこで名刺交換させていただいたものの特にその後お会いすることもなく、、そんな中で翌年「上場準備に入るので、社外取締役の候補を探しているので相談に乗ってください」と連絡したんですよね。懐かしいです。
田村さん:GLOE共同代表の古澤さんとお仕事でご一緒したことがありますし、ウェルプレイドとRIZeSTが合併(*1)したことも谷田さんのことも存じ上げていたので、eスポーツの会社が大きくなっていくんだなと関心を持っていました。
僕の経歴を簡単に説明すると、2009年に株式会社ミクシィに入社後、SNS広告営業、mixiアプリのコンテンツ誘致、『モンスターストライク』を立ち上げとともにマーケティング責任者として国内外のマーケティングを統括などの経験を通して、執行役員に就任。全体的なイベント事業やマーチャンダイジング事業の事業化を担ってきた中で、スポーツにも力を入れることが決定しライブエクスペリエンス事業本部でスポーツ事業全体をみることになりました。その流れから、MIXI GROUPに千葉ジェッツがジョインし、代表に就任したんです。
谷田さん:ライブエクスペリエンス事業本部の中では XFLAG PARKや『モンスターストライク』の公式YouTubeチャンネルも立ち上げたり色々されてたんですよね。社外取締役をどなたに依頼するか考えていたときに、年齢や感覚、温度感の近さやスポーツ領域の古きよきものから新興市場のeスポーツシーンまで理解してくれている方がいいなと考えたときに、田村さん以外考えられませんでした。是非、これから起こることも一緒に体験したいと思って依頼させていただいたんですよね。
田村さん:「モンストグランプリ」でeスポーツを大きくしたいと思っていたので、是非ということでお受けしました。過去にGLOEが掲げていたビジョン「ゲームプレイに肯定を ゲーム観戦に熱狂を ゲームにもっと市民権を」、ミッション「eスポーツの力を信じ、価値を創造し、世界を変えていく。」にとても共感していました。僕自身も同じように感じていましたし、覆したいと思っていたことだったのでサポートできるんじゃないかと思ったんですよね。あとは純粋に会社や事業が楽しそうだと思ったのも大きいです(笑)。
(*1)eスポーツ専門会社のウェルプレイドがRIZeSTと合併
(参考)合併の道を選んだeスポーツ制作のライバル2社、ウェルプレイド・ライゼストの描く夢
コロナ禍以降、全試合チケット完売御礼を生み出した
空中戦・地上戦、それぞれの仕掛け
田村さん:千葉ジェッツは、僕が代表に就任した当時はすでに天皇杯を3連勝するなど人気も実力もあるチームでした。ただ、コロナ禍で状況は一変。2020年の3月にはリーグ戦がシーズン途中で終了。試合が出来なくなり、メインの収入源であるスポンサーとチケットそれぞれの売上が見込めなくなるという状態に陥ったんです。とはいえ、いずれコロナが明け、各所でビジネスの立て直しが起こるであろうとは思っていたので、未来に繋げる状態を作ろうと考えました。
例えば、2020~2021年のシーズンは開幕こそできたものの、入場制限で座席と机を使えるのがMAXで50%だったんです。それでは事業が立ちいかなくなるので、様々な方法を検討した結果、ダイナミックプライシングを導入することに決定しました。需要に併せてチケットの金額が変わる仕組みで、日本のバスケットチームでは千葉ジェッツが初めて導入しました。スポーツは見る人によって価値が違うんですよね。1万円払ってでも観たいという人がいる一方で、1000円の人もいる。ストリートミュージシャンにいくら払うかと似た話です。需要がなくて観たい人が少ないなら価格を下げるという合理的な方法だと思うんです。最初は反発の声が多かったんですが、結果的にチケット収益の面では単純に半分にはならずに済みました。
ダイナミックプライシング導入時のニュース:https://chibajets.jp/news/detail/id=18099
また、チケット関連の人員をスポンサー営業に振ることで、新しいスポンサーが増えて次年度の売上をのばすこともできました。スポーツチームのいいところは、営利会社ではありますが地域に根差しているので行政と近い距離にいることなんですよね。地域の困りごとの相談を受けた際には、それを解決できるスポンサーを繋いだり、賞品開発をするなど、地域と企業のハブの役割になれます。せっかく素晴らしい活動をしていてもボランティアでは続かないことを、スポンサーをつけて資金を集めて三方良しの状態になるような活動を続けたことで、今ではこの活動だけでも大きな売上を安定して立てられるようになりました。
谷田さん:ファンという観点でいうと、既存のファンを中心に共に生き抜いたという状態だったんですね。逆に、新規のお客さんも増え続けている印象ですが、それはどういったことをしているんですか?
田村さん:『モンスターストライク』で公式YouTubeチャンネルの立ち上げをしたとお話しましたが、動画メディアはまだまだ可能性を広げる力があると確信していたので、動画メディアに力を入れました。YouTubeのスポーツカテゴリの再生数と登録者数ともに、Bリーグってトップ10に入るんですよ。ショート動画サービスが始まったタイミングでさらに加速しましたね。
谷田さん:ファンが増えて、千葉ジェッツが発信する全てのアウトプットにおけるインプレッションの結果が良くて、スポンサーも喜んでくれて、、といいサイクルが生まれている状態ですね。
田村さん:空中戦・地上戦でいうと、オンラインは空中戦なんですよね。フリークエンシーを高くして、とりあえず知ってるという状態を作ることが重要なんです。その状態になると、友達に「観戦しにいこう」と誘われたときにコンバージョン率が高まるんですよね。さらに、年に3回以上試合を観戦しにきてもらえればファンクラブに入ってもらえる可能性が高くなるということはデータ上分かっていたので、いかに観戦しにきてもらえるかを考えました。「知ってる」「行きたい」「チケットが手に入らない」といった売り切れ戦略が相まって、リーグ戦の全試合のチケットが完売するという状態を創出することができました。
ゲーム・eスポーツビジネスと、スポーツビジネスの大きな違いとノウハウ活用のむずかしさ
田村さん:ゲーム・eスポーツ業界とスポーツ業界の大きな違いは、ゲームに接したことがある人の方が圧倒的に多いというところです。ゲームは6000万人ぐらいですが、サッカーなど何かしらのスポーツをやっている人は1000万人ほどと言われています。その中でさらにバスケをやってる人となるとさらに狭まって237万人なんです。なので、ポテンシャルでいうとゲームの方が圧倒的にあると言えます。
一方で、スポーツは局所的で地域性や帰属意識などが生まれやすいんですよね。人が生まれる町って指定できないじゃないですか。そこに応援すべきコンテンツがある、帰属意識の高さやコミュニティの力は、リアルスポーツにはあると思っていて、これがけっこう強いんですよね。
谷田さん:eスポーツは地域性がつくりにくいですよね。地域でチームを持っていたり、拠点を地方に移したチームなどもありますが、「その地域の人が、地域のチームだから応援する」といった意識を作り出すのはなかなか難しいように感じます。どちらかというと、タイトルごとのコミュニティというか、「格ゲー出身」「〇〇のゲーセン出身」みたいな帰属意識が生まれたり、好きで居続けられる熱の保有のしやすさみたいなものは生まれやすいように感じます。
田村さん:先ほど空中戦の話をしましたが、地上戦でいうと、地域に密着して活動するというポイントがあります。スポンサーを獲得するには、ただ強いだけではなく社会貢献活動をどれだけやっているかが重要なんですよね。地域の人の役に立っていることがスポンサーの共感を得るんです。空中戦のオンライン施策ばかりやっていても、ファンもスポンサーも増えないんですよね。スポーツクラブの循環モデルがあって、資金がまず大切です。資金を獲得して、チームを強化して、チームが強くなることでファンがついて、ファンがつくことでスポンサーに還元できる。そこで価値を感じていただいてまた資金が増えて、選手がさらに強くなる。こういう循環を作ることが成功モデルなんですよね。
谷田さん:成功モデルに軌道を乗せられず、極端ですが「全然試合に勝てない」「いい選手が揃わない」「結果がでないからファンがつかない」「スポンサーもつかない」という逆回転のマイナスループも起こりかねない。ただ、それでも応援してもらえるように考えて施策を打っていくことも必要ですよね。
田村さん:そうですね、次の目標を掲げて応援してもらえるようにするというのが社長のやるべきことで、後ろを見てはだめなんですよね。スポーツは終わらないじゃないですか。だから三方良しみたいな形で、周りを巻き込んでいくことが重要です。千葉ジェッツのミッションにもある「千葉ジェッツふなばしを取り巻く全ての人たちと共にハッピーになる」がまさにそれを表しています。
谷田さん:投資をし続けることで関連当事者に対する福の神になるというか、いいエンジンになるというのが、スポーツチームの本質的な美しい姿なんですね。
田村さん:日本のスポーツはスポンサーに頼る部分が大きいんですよね。売上の50%はスポンサーからの収益だったりします。一方で欧米はスポンサーより放映権の収益が50%を占めるケースの方が多いんです。
谷田さん:日本だけがそうなってしまう原因って、課金率、課金単価、エンタメの多さなどが原因なんですかね?
田村さん:ガラパゴス化していたこと、つまり日本のマーケットだけをみていたことが原因だと言われています。メジャーリーグやプレミアリーグなどと同じタイミングで、日本国内でも様々な試合が生まれていたんですが、世界に向けて放映権を販売せずすべて地上波だったんですよね。アメリカは放映権をなるべく高く売っていたので、世界中で観戦できるようにしていった結果、2,30年の間に差がついてしまいました。NBAも放映権が大半なので、営業に力を入れてないんですよね。
谷田さん:過去の歴史から学ぶ、次のエコシステムを作る重要な観点ですよね。世界最高峰といえるものであるかどうかも重要であるように感じます。
田村さん:そうですね。eスポーツで考えると、そもそもeスポーツの放映権を売る権利が誰のものであるか。ゲームタイトルはゲーム開発会社がたくさんの方々に遊んでもらうためにつくっているものなので、その権利はゲーム会社側に帰属するんですよね。eスポーツシーンでいうと、無料でもいいからたくさんの人に見てもらった方がゲームを遊んでくれる人が増えるので、ダイナミックプライシングや放映権の仕組みが相反するんです。ゲームの構造上、入り口を狭める必要がないことや、ビジネスの思惑が別の観点でも絡み合ってくることが難しいところですよね。
谷田さん:スポーツビジネスのノウハウを、ゲーム・eスポーツ業界にも使えばいいと端的に言えないのはこういう部分ですよね。
スポーツ業界でどのように戦っていけばいいか、eスポーツをより昇華させるために何ができるか
田村さん:だからこそ、ビジネスモデルを確立することが重要だと思うんです。どういう形がサステナブルかというのは、業界全体が積極的に開発していかなければならない課題だと捉えています。
谷田さん:ゲームメーカーがパッケージを売るより別のビジネスモデルを考えることができる状態になっていたり、チームがスポンサー営業以外の部分に投資できる状態になっていることで、エコサイクルが循環し、興行が成り立っている状態というのが目指すべき世界なのかもしれないですね。
田村さん:日本のプロ野球も90年、サッカーは30年、バスケは9年の歴史ですが、一度そういうサイクルに入れば継続して観てもらえますし、競技シーンが続いていくんですよね。それだけ根付くものなので、eスポーツも競技シーンが人々の生活の一部になり、100年、200年続くものになれる可能性がまだまだあると思うんです。もちろんもう少し発明が必要ですが、間違いなく可能性はあります。
谷田さん:バスケに代わるバスケっぽいものをもう一つ作るのは難しいですが、ゲームはゲームタイトルがたくさんあるので神ゲーが生まれる可能性が高い。つまり、多種多様な競技シーンが生まれる可能性が常にあるんですよね。そして、それに投資しようとしているゲーム会社がたくさんある。新しいチャレンジに向かう会社が生まれる可能性を諦めたくないですし、様々な会社と会話させていただいている僕たちが積極的にこういった会話ができるといいなと思います。
■関連リンク
・千葉ジェッツ公式サイト:https://chibajets.jp/
・千葉ジェッツ公式YouTube:https://www.youtube.com/@chibajets
取材・筆:GLOE株式会社 経営企画部 広報グループ グループ長 金田裕理